顕微鏡のデジタル版、デジタルマイクロスコープ(以下DMS)を買おうと思って、どんな製品があるのか選択肢をザッと見て回って、適当にカテゴリ分けなどをしてみたのが前回の話。
そこでも書いたとおり、あまりしっくりくる情報が手に入らなかったのですが、なんでしっくりこなかったのかはよくわからないんですよね。圧倒的に自分の知識が足りないうえ、業界が狭くて規格や宣伝が今ひとつ洗練されていないからかなぁ。
とはいえ、製品の説明やユーザーのレビューに目を通す中で「ここに注意しなきゃイカンのでは?」ということがわかったので書いておきます。
なんかグダグダ書いてたら長くなったけど、、、まぁいいか。
DMSの宣伝文句で示される倍率はアテにならない
製品説明でx1000だとか500倍だとか色々な表示を見かけますが、非常にうさんくさい。これは自分個人の感覚だけでなく・・・なくて・・・なんと表現したらいいのかわかりませんが、これは様々なユーザーレビューの総意だと思います。
「倍率」の概念が自分の(=おそらく一般的な)イメージと全然違った
これは純粋な光学顕微鏡と異なり、DMSは画面に表示をする仕組みになっていることが理由で、例えば「6インチの液晶で見れば90倍だけど、同じものを20インチのディスプレイで表示すれば1000倍」みたいな意味の表示、が許されているようなのです。
いや、そりゃーさー、物理的な面積としては20インチは6インチの11倍くらいあるけど、それを顕微鏡の倍率っていうの? だったら77インチの液晶テレビで表示させたらもはや200,000倍(20万倍)とかになるんじゃね? モザイクだらけのぼんやりした画像だよね? そんなのアリ? みたいな話です。
つまり、製品説明でいう倍率は「表示する面積」が何倍か?も加味してメーカーや販売店が好き勝手に書いているもので、それで細かい部分がちゃんと見えるか?という点は無視していることに注意が必要です。
ハッキリ言ってこんな説明が野放しの状態で製品のスペック比較なんてできないので、とりあえず
「50-1000倍と書いてあれば50倍、40-2000倍と書いてあれば40倍なんだろう」
と考えておくことにしました。
細かいものがよく見えるか?はレンズのほか使用されるセンサーに依存する
DMSというのはマイクロスコープ(顕微鏡)と称しつつも、実際は肉眼で直接見る従来の光学顕微鏡より、デジカメやスマホのカメラに近い製品である、と思った方が良いかと思います。
実際にどれだけの細かさのものが見えるのか、認識できるのか、というのはレンズのほか、使用しているイメージセンサーの性能(≒解像度)がものをいってきます。
イメージセンサーは部品メーカーが作るもので、その部品を使ってDMSメーカーが製品を組み立てるわけですが、下のように様々なイメージセンサーが存在しています。部品メーカーによって得手不得手や品質差などがあるわけで、ここでDMSメーカーが何を選択するかで、どのくらい細かいモノが見えるかが決まってくるわけです。
下部の数値を見ると11~150M(1億5千万画素)までの高級なラインナップ図とわかる
ただまぁ、実際にDMS製品で具体的にどこの社のどのセンサーを利用しているかまで明記した製品というのは少ないので、センサーの型番やスペックについて詳しく知っても意味はなさそうです。(スマホでは明らかになっていることが多い)
DMSのセンサーは解像度が低いんじゃね?問題
実際どのようなレベルのセンサーが使われているのかというと、、、デジカメやスマホでは毎年新しいものが出て今では1億画素!なんて売り文句もあるくらいですが、DMSの場合はそんなに競争も激しくないため数年遅れの状態です。つまり、ほとんどの製品では数年前のセンサーが利用され、画素数としては100万から500万くらいがメインになっています(それすら書かれていない製品もあるけど)
これはDMS業界だけが割を食っているということではなく、たとえば自動車のドライブレコーダー(ドラレコ)や監視カメラなどでも同様で、スマホほどの鮮明な静止画を撮る必要がない(競争が激しくない?)ためコストの抑えられた、画素数の少ない、古いセンサーが使われることが多くなっています。
つまり、どちらかというと最先端の高性能センサーが使われるスマホやデジカメの世界のほうが特殊なんだ! と思った方がいいようです。
ただ、同じような仕組みなんだし、キレイな画像を撮りたい気持ちだって同じなのだから、本当はスマホの中身に近い状態にしてほしいんですけどね・・・
※最近はドラレコなどで暗所に強いものや耐熱性、動画優先といった感じで、解像度以外に注力して設計がされたセンサーが使われることも多いので一律に比較するのもあまり意味がないかもしれない
使われるセンサーの解像度と実際に出てくる画像の解像度は違うらしい
さて、実際の製品レビューを見ると、例えば製品説明で500万画素と謳う製品で「本当に500万画素あるのかアヤシイ」みたいなことを書いている人もいます。
これは小さいサイズの製品で高速な画像処理をするのは技術的・コスト的に難しく、センサーは500万画素あっても、処理&アウトプットされる際に解像度をもっと低く抑えている、ということのようです。
また、表示するディスプレイ画面の画素数にも影響を受けます。
たとえばフルHD(2K)では約200万、4Kでは約800万という画素数になりますが、仮に上記の500万画素の製品で全画素を利用しそのまま500万画素の処理をしても、フルHDディスプレイではそのうち約40%の200万画素しか表示できないことになります。
じゃあ最初から200万画素のセンサーでイイじゃん、ということになります。
画素数の多いセンサーもあるが未知数
実際のDMS製品はどうなのか?と画素数を中心に探していくと、市販品で普通に購入できる中では最高で51MP、つまり5,100万画素までのものが見当たりました。
ココまでの解像度になると、数値上はスマホやデジカメと同等レベルになってきます。そしてスマホの販売価格を見てもわかるとおり、画素数が10倍になっても価格が10倍になるわけでもなく、手の届く範囲内におさまっています。
じゃあ、そういうのを使えば多少のコストアップで済むのでは?と思うのですが・・・なんかすごく製品が少ないんですよね。どうしてでしょうか。
もしかすると、この解像度のものが漏れなくきっちり表示できるディスプレイが市販されていないからかも。(8Kの解像度でようやく3,300万画素)
なので、センサーは5,100万画素で画像を認識しても、結局はそれを画像処理したうえで実際にディスプレイに表示できる解像度に落としていく必要があります。
こうした画像処理は複雑、高度になればなるほどコンピュータパワーが必要になってくるので、写真のようなコンパクトな製品ではあまり良い結果が得られない、だったら最初から低い解像度のセンサーでいいじゃん、と。(表示するのではなく、メモリーカードに保存するだけの記録用画像は高解像度でイケるのかもしれない)
このあたりの製品は実際に製品が出始めたのは最近なのか、日本語レビューはまったく見かけないし、海外でも販売数が少なくてレビューの信頼度もうーん? という感じで未知数なのが現状です。
USB接続しかないモデルは高解像度の表示に適さない
ここまで「DMSがどれくらい細かく対象物を認識できるか」という部分を中心に見てきました。
今度は自分が肉眼で見るほう、つまり「DMSが認識した対象物を自分(肉眼)がどれくらい細かく認識できるか」という部分を見てみます。(個々人の肉体に関係する視力が低いとか老眼が~といった話は触れませんが、本当はそういった部分も含んだ話)
いろんな製品を表示方法で分けると
・USB経由でスマホやPCと接続して、そのスマホ等のディスプレイに表示するもの
・HDMI経由で直接ディスプレイに接続するもの
があり、その両方に対応したモデルもあります。
(ディスプレイ一体型DMSの場合は、どちらもできずに一体となったディスプレイにしか表示できないモデルもある)
USBはコンピュータとの接続には必須のためそれ自体はあってよいのですが、転送スピードが遅いため高解像度の表示には画像専門のHDMIのほうが適しています。
中にはHDMI端子がついておらず外部ディスプレイに直接表示ができないモデルもあって、そうするとUSB経由ONLYになってしまい、高解像度表示は諦めざるを得なくなります。
低価格モデルにおいては大半がUSBのみの接続となるのですが、1万円以上する製品でもHDMIがついていないことは普通にあります。それでも大丈夫かどうかは製品選びの際にはよく考え、注意して確認しておく必要があります。
一体型モデルの液晶ディスプレイは解像度が低い
5千円~の液晶ディスプレイが一体となったDMSは便利そうですが、当たり前ですが安い価格帯だとよい液晶部品は使えません。
それこそ30万画素~100万画素レベルの低い解像度の液晶になってしまいます。
たとえば、一体型モデルの代表的なメーカーAndonstarの大型液晶モデルでも1280*800程度の解像度になります。
実際のところ5インチとか7インチ程度ではそんなに高解像度でなくても構わないのかもしれませんが、今どきは5インチ程度のスマホでもフルHD(1920*1080)は当たり前で、1280*800あたりの解像度はかなりローエンドモデルに限って採用される感じになっています。
(自分は)解像度はできるだけ高い方が良いのではないかと思っています。
もちろん例外的に、このようなフルHDディスプレイが採用されたモデルもあります。
とはいえ、いろいろな製品を見ていくとディスプレイ解像度に関しては説明をよ~く見ないとわからないようになっていたり、どう考えても誤認するだろ!?という説明方法をとっている例もあるので、注意しながら確認していく必要がありそうです。
また、ディスプレイ一体型のなかには、外部に映像を出力ができないモデルもあります。この場合、一体型のディスプレイ表示に不満を持っても、外部の高解像度のディスプレイには接続することができず、事実上高解像度での観察ができないということになるので、注意が必要です。
たとえば、下の製品一覧だと左から3つ目までがUSB(PC出力)もHDMIも付いていないようで、かなり厳しいと言わざるを得ません。
どうがんばってもディスプレイ解像度の854*480を超えて細かくは見られない
動画での解像度低下を解消できるUSB3.0製品は数が少なくまだ高い
製品の説明やレビューを見ていてもイマイチよくわからないのが、静止画と動画の違いです。いったい、どうやって静止画と動画を切り替えているのだろうか。デジカメのように動作モードに動画/静止画の2パターンがあるのか、自動判別して切り替えるのか。
デジカメやスマホを考えればわかりますが、静止画と動画では処理すべき情報量が絶望的に異なるので、動画は情報量を相当減らした(ハショった)うえで処理しています。
実際の使用状況を考えると、例えば基盤のクラック(割れ)などの静止したものを拡大して見たいのと、微生物の動きを見続けたい場合には求められるものが違ってきます。
また、静止したものだけ見られればいいと思っていても、位置を調整する際には上下左右にレンズ(もしくは対象物)を動かすことになり、動画を見ているのと同じ状態になります。つまり、あまりに動画の追従性が悪いとうまく位置の調整ができず、静止画像だってうまく見られない可能性があるのです。
そう考えると、動画でも高解像度で見られた方がいいのですが、実際は上の例のとおりVGA程度の解像度に落ちてしまいます。
これはUSB3.0という接続方式を利用し、高速処理ができる回路があれば解消される可能性があるのですが、実際にはUSB3.0以上の接続をしている製品は少ないようです。
種類が少ないうえにまだお高い印象
101fps(640*480)だとヌルヌル滑らかに見えるけど、15fps(2592*1944)だと1秒に15コマなのでたぶん少しカクカクして見える、という感じだと思います。
高速転送が謳われているUSB3.0でもこのくらいの制限がかかってきますが、それでも上の「最大動画解像度640*480」という製品(USB2.0接続)よりは遙かに高解像度の動画が見られることは間違いないです。
※FPS(FramePerSecond)は1秒間に何コマの映像を扱えるかという意味
もう少し技術的なことも含めてしっかりした情報を知りたいときは
これまで「商品を選ぶ消費者」目線で書いてきましたが、もう少し客観的・一般的に、わかりやすく(しかも詳しく)情報がまとめられたサイトを見つけたので紹介しておきます。
また、自分でソフトウェア開発を行う場合などはオプトサイエンスという商社が扱っているAnMo社Dino-Liteシリーズがよさそうです。(条件付きながらSDK提供の話などがQ&Aに掲載されている)
光源の種類別に多数のラインナップがあるところからわかるように、Liteという割に少々専門的なところがありますが。(値段も少々高いがサポートを考えればしかたないと思われます)
次は実際に商品の選定から購入までいきたいと思います。